インタビュー「拝啓 父さん・・・」

拝啓 父さん、富士の雪がとけた頃、 
桜山の麓では「海のじどうかん」が始まると思われ…

words by Satoru Yahata


「電気がなかったら暮らせませんよ」
「そんなことないですよ」
「夜になったらどうするの?」
「暗くなったら寝るんです」

言わずと知れたフジテレビの名作ドラマ「北の国から」の主人公、黒板五郎と息子純 9 歳との名シーン。東京で暮らしていた主人公が 子ども二人を連れて故郷の北海道富良野に戻り、大自然の中で生 き抜く人間たちのドラマが 20 年にわたり放送されました。電気、ガス 、水道がない家に引っ越した家族は、沢から水を引き、風力発電を 自作し、井戸を掘り、薪で暖をとり、農家をしながら廃棄野菜を利用 し、炭焼き、木酢を集め、廃品や廃石で家を作ります。頑固で不器用ですが地域の人間にも暖かい目をもつ人物として描かれた父親像は、わたしにとって他に類をみない憧れのヒーローでした。

先日、わたしのところに友人から面白い人がいるよとメールが届きました。その男は一般社団法人「その辺のもので生きる」代表をしているテンダーさん。現代版、黒板五郎のような暮らしぶり。その溢 れる地球への想いを言葉にするならば「生きる知恵を共に学ぶ実践の場を作りたい」そういうことらしい。彼らの活動内容を読み進むと、彼らが描く未来図もステキ。ということで使わせて頂いたのがこのイラストでした。

自分たちで作れるエネルギー自給と循環システム、屋上ビアガー デン、研修部屋、年配の方のジム、こどもラボ、手仕事物販、工作場、 製材所、家畜、モバイルハウス etc …。この楽しげなのは何ぞや!? 「その辺にあるもので生きる」ことへの問いかけが、この絵の中に詰まっているようでワクワクします。 そんな場が逗子でも始まろうとしています。逗子の町を形作っている田越川と桜山の間に位置している小さな 2 階建ての家が「海のじどうかん」です。中を覗くと、まだ何もありません。庭には、ビワの木、杏子、キンカン、三宝柑、サクランボなどの果樹が植わっています。今、あるのはそれだけです。

子どもにも大人にも、添加物の入っていないものを食べてもらい たい。この果樹は安心して皮まで食べられます。子どもたちが高い木 に登り、手を伸ばし、ようやく自分で口に運べたとき、お金で買った 甘いミカンを食べている時より、細胞がワクワク、ワサワサしてくれるかな。もし、これから自分たちで手入れをし、食べものを育てられたらどうだろう。この地面が雨を受け止め、土地の滋味を植物が吸い上げ、時間をかけて口に入れることで実感は生まれるだろうか。

 
 
 
 

児童館に来た時の遊び相手は、庭に駆け回る鶏。その鶏の餌は、 抗生物質入りの市販の餌でなく、自分で育てた野菜であったり、畑 を掘り起こして出てきた虫、裏の川で獲ってきた魚。そうであれば餌を獲ってくることが、かけがえのない遊びです。大事に育てた鶏は卵を産みます。育った環境を整えてあげた鶏の暖かい卵。普段食べる 卵と違う思い出になる筈です。そんな大切に育てた鶏の肉も自分た ちで頂くとしたら何を思うだろう。美味しいかな、悲しくて涙が出てし まうかな。

川や海もレジャーとしての遊びの場ということだけでなく、自分たちが生きるために大事な場でもあって欲しい。ウナギやアナゴ、ワタ リガニ、クロダイ、ボラがいたよ!海に潜れば、数えきれないくらいの生き物の数。潜れない子のために、児童館の中に小さな水族館を作 ろう。普段見えない生き物たちの暮らしに驚くと思います。そうした積み重ねで、この川の水は飲めるの?どこから来てるの?海はきれいなの?疑問は自分の内側から広がっていきます。

今の暮らしにはゴミが大量に出ます。いらなくなった家庭ごみ、廃材やプラスチック、放置された山、そうしたものを資源を再利用して「拾ってきた家」を大人達が本気で作れたら楽しそう。手入れの届か ない竹藪からは、箸、ざる、籠、椅子、テーブル、何でも作れます。食べ物、日用品、自分の手で育て、作り、修理もできる、そんな環境に囲まれている頃には、自分の身体や心は逗子で出来ていることがわかるでしょう。そして気づきます。この暮らしを大事にしたい、と。

やる気になれば、何でもできそうで夢は広がります。子どもも大人も一緒になって、やってみたいことを実践していける場になるでしょうか。妄想しつつも、あまり難しいことを考えず、手足の先にある実感をつかまえて過ごしてみる。後から振り返れば「人も場もいつの間に か育っていた」そんなことかもしれません。

僕は周りに迷惑をかけながら、自分が楽しいと思うことを 42 歳までやらせてもらいました。海を渡れるようになったことも、魚を獲れることも嬉しいには違いないのですが、自分が親になってみて心に変化があったように思えます。今は亡き父や出会った海の民から教わった大切なことを伝えたい。自分が楽しいだけでなく、皆とバカなこと言いながら笑って一緒に過ごしたい。子どもたちが親になったとき、自分の息子、娘にも伝えたいなと思う日々の体験があったり、電 気、ガス、水道がすべて止まっても、お金がなくなっても、皆がそれほ ど不安がらなくても大丈夫、そんな環境を作りたい。思いはつのれ ど、どれもこれも綺麗ごとのようで歯がゆいところです。本当は好き な人に「ありがとう」と言われたいだけだからかもしれないな…。

すべてはまだ想像の中のものでしかありません。作っていくのは、 これから児童館に日々通う人、一人ひとりです。「この場作りに参加 したい!」と感じた方は、ぜひ、ふらりと遊びに来てください。

肌を刺す冷たい北風。冬の逗子海岸に立てば夕闇に浮かぶ富士山の稜線、その上には月と金星。昔から変わらぬもの、そして変わっていく もの、また取り戻すものが交錯しながら、2017 年の春を迎えます。

 

「海のじどうかん」(2017 年 4 月~) 逗子市桜山
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